第1話 我が航路に光を求めて
地球暦2190年1月。5年前にガミラスより独立したクルーク 一行は、マゼランから40万光年彼方にあるシュリウシア銀河外縁部を放浪していた。
ーーーーーーーーーー
〈艦隊旗艦メルトリア級"ロドルフィア"艦内〉
艦長「閣下!この宙域で、サレザーと似た波長の光が観測されたとの報告が……。我らの住める星系が存在するやもしれません」
クルーク「それは確かか?」
艦長「はい。観測班によれば、存在自体は間違いないと。」
クルーク「そうか…、位置は判っているのか?」
艦長「いいえ、凡その方角は見当がついているのですが、未だ詳細な座標は分かっておらず現在捜索中であります」
クルーク「そうか……、食料含む物資が底を尽きかけている。速やかに発見せよ」
艦長「はっ!」
艦長「それから閣下、これは別件なのですが...実は、艦隊右舷側の宙域に、神話の『白金の星の海』と符合する反応があるとのことで」
クルーク「大海を治めし"航海の神"の星か…」
艦長「はい、観測班によれば、性質的にその星系は"ハーマリア"で間違いないと」
クルーク「"ハーマリア"だと…!?存在は予言されていたが、まさか我々が発見することになろうとは…」
副長「長距離観測の結果、ハーマリア星系の第3惑星"ポルトメルシア"は資源豊富な惑星との事。物資補充にも役立つかと……」
クルーク「…我々が降り立つことはできるのか?」
副長「大気組成に問題はありません。気候も全域を通して穏やかで、船外服着用等特段の処置の必要は無さそうです。長期居住は不可能ですが、数日錨泊する程度であれば何ら問題無いかと」
艦長「乗員も限界が近づいています。ここらで一度陸に上がった方がよろしいかと」
クルーク「そうだな…。艦隊各艦へ伝達!全艦進路変更、目標ハーマリア星系第3惑星ポルトメルシア!」
艦隊「はっ!!通信士、全艦へ伝達、進路変更!航海士、面舵一杯!全艦、右回頭60°!!」
―20時間後―
進路を変えたクルーク艦隊は、主星ハーマリアから構成されるハーマリア星系へとたどり着いた。
クルーク「あれが主星ハーマリア…、なんと美しい輝きだ……」
艦長「全艦、ポルトメルシアへ降下」
航海長「ポルトメルシアに降下します」
観測班の情報から、特異な星系であることは把握していた一行ではあるが、言葉で聞くのと目で見るのにはやはり、大きな違いがあった。
主星ハーマリアの白金色に輝く光を受け、宙域を覆う宇宙ガスがその星系全体を白く幻想的に包んでいた…
クルーク「ポルトメルシア…、美しい星だ」
艦長「この白金の宇宙に海の青が映えますな」
副長「なんだかまるで、イスカンダルを見ているかの様です……」
ポルトメルシア…
それは白金色のガスに包まれたハーマリア星系の第3惑星であり、広大な海を擁する海洋惑星であった……
緑の美しい陸地に加えて眼前を覆わんとするほどの広大な海。
艦隊の誰もが、遠きイスカンダルを思わずには居られないほど、とても美しい惑星であった………
クルーク「副長、惑星の状況を知りたい、直ちに調査隊を編成し惑星調査の任に就いてくれ」
副長「はっ!!調査隊を編成、惑星調査の任に就きます!」
クルーク「全艦、着水準備!艦体各部チェック急がせろ」
艦長「はっ!全艦、着水準備!!」
クルーク「航海長、着水は大陸沿岸部にて行う様に」
航海長「はっ!大陸沿岸部に着水します!」
ポルトメルシアの海へ着水した艦隊は、ロドルフィア副長の編成した調査隊を発進させた。
惑星の状況が分からなければ幾ら錨泊可能と云えど民間人や部下を上陸させることはできない。
しかし、クルーク大将軍の想定よりも、民間人のフラストレーションは溜まっていた…
セカンドオーダー幹部「閣下!!大変です!同行の民間人が!」
クルーク「民間人がどうしたのだ」
幹部「惑星に降りたのだから外に出せと、半ば暴動の様な状態に!!」
クルーク「むぅ…、そこまで状況が切迫しているとは……」
幹部「今現在は、アンジェロ中将麾下の旧近衛第一師団員が抑えてくれては居ますが、どれほど持つか…」
クルーク「そうか……、通信士、全艦へ回線を開け。私が民に呼びかける!」
通信士「はっ!!」
通信士が全艦への回線を開き、クルーク大将軍が通信用ハンドマイクを受け取った
クルーク『我と志を同じくし、共にガミラスを発った同志諸君。ロドルフ・クルークである。どうか私の言葉に耳を傾けて欲しい…。今や遠く40万光年以上離れた大マゼランの故郷、ガミラスを発ってから早くも5年の歳月が流れた…。旅に疲れ、外に出たいと云う諸君の気持ちは痛いほど良く判る……。しかし判って欲しい、ここは未知の惑星なのだ!!彼のイスカンダルを思わせるような美しい星ではあるが、我らはこの星の事を何も知らない。今、安全を確かめる為に調査隊がこの星を調査している…。どうか!どうか後少し、辛抱して欲しい!無為に諸君らを死なせてしまえば、私は殿下に、あのマティウス・デスラーに顔向けできなくなってしまう!!諸君!殿下の為にも、どうか後少し、後少し辛抱して欲しい!以上だ』
クルーク大将軍が全体に呼びかけを行ったことで、暴動の発生を未然に防ぐことが出来た。
仮に暴動が起こっていれば、彼らに銃を向けざるを得なくなる。それはこの艦隊の誰も望む所では無い…
そういった事態を未然に防ぐことができたのは、大将軍の人柄故なのかもしれない…
着水から1時間半が経ち、ようやく調査隊が帰還した。
彼らのもたらした情報は、物資困窮に喘ぐ艦隊に希望をもたらすものであった……
惑星には豊富な資源が確認でき、必要な物資は充分補充出来ると云うのだ。
クルーク大将軍は補給隊に各艦の物資状況と必要物資のリストアップを命令。
又、上陸も問題無いとの情報を得たことで、民間人を優先に上陸を許可。
それに併せて施設隊に軍民用陸上キャンプの設営を命令。物資補充の数日間だけではあるが、久し振りに陸上で生活することが出来ると聞き、それまで不満が溜まって居た人々も、握りしめていた拳を解いた。
クルーク「補給隊長、必要な物資を揃えるのにどれくらい時間が要る」
補給隊長「休み無しで動けば4日程で可能ですが…」
クルーク「それは認められんな。休息を取りつつやってもらいたい」
補給隊長「それであれば、1週間ほど頂ければ」
クルーク「判った。頼む」
補給隊長「はっ!」
ー着水から4日後、ロドルフィア艦橋ー
艦隊がポルトメルシアに着水し4日が経過していた。
施設隊の設営も初日に完了し、民間人を優先してキャンプで休息を取らせていた…
幹部「物資の補充は順調。この分で行けば、必要分以上に備蓄が用意出来るかと」
クルーク「それは良いな。しかし…、早く我らの住める星を見つけねば……」
幹部「観測班が云うにはこの星系の近くに、我らの住める星がある可能性が高いとの事ですが……」
クルーク「物資補充が完了し次第その星系の捜索をせねばな…」
その様な話をしていると、突如として艦橋に警報が鳴り響く
クルーク「何事だ!」
観測員「Unknown感知!!艦隊左後方、距離79km!!」
艦長「閣下、先刻、警戒監視に出ていたハイ級の艦隊が通信を絶ったとのことです。」
クルーク「3隻全てがか!」
艦長「…はい。おそらく、同じ部隊の仕業でしょう」
クルーク「……そうか…。Unknownを敵と判断する!艦隊に非常警戒態勢発令!即応可能な艦から緊急発進!!輸送艦を優先的に守備せよ!!」
クルークからの戦闘指示を受け、艦隊に随伴していたハイ級駆逐艦4隻とデストリア級巡洋艦1隻が発進、敵の正面に展開する。
幹部「閣下、敵の目的が分からない以上、無闇に戦闘をするべきでは無いと具申します。」
クルーク「そうだな、直ぐにでも撤退すべきだろう。しかし、今多くの民間人が陸に上がっている。彼らを置いてゆく訳にはいかん……」
艦長「閣下、大陸内部に1km程進んだ場所に比較的なだらかな平野が確認できます。臨時のLZとして民間人を誘導し内火艇で収容するのはどうでしょうか」
クルーク「…、その案を採用する。艦隊は輸送艦を守りつつ展開!輸送艦は敵の死角となる位置まで退避!その後直ちに内火艇を発艦!LZへ急行させよ!」
クルークの指示を受けてそれぞれの艦船が移動を開始し、陸ではクルークから指示を受けた施設隊が民間人をLZへの誘導を始めた。
クルーク(敵の目的は何だ…。何故我らを攻撃する……)
艦長「緊急発進する!!機関始動!!総員戦闘配置!!」
砲雷長「主砲・副砲、各砲座戦闘態勢!魚雷・ミサイル装填!!」
航海長「緊急発進、機関始動!!両舷前進二戦速!!上昇角20!!」
体制の整ったロドルフィアも戦列に加わり、艦隊の戦闘可能な全艦艇が集結する。
その一方で輸送艦に危機が迫っていた…
先行部隊の攻撃を受けた敵艦が戦列を離れ、一目散に輸送艦群へ向かっていたのだ
艦隊「閣下!輸送艦が狙われています!!」
クルーク「戦列を離れた艦が輸送艦に……偶然、いやこれは…意図的…!!」
幹部「輸送艦は現在、民間人の収容作業中です!このままでは…!!」
クルーク「艦隊全艦へ伝達!!輸送艦を死守せよ!敵の狙いは輸送艦だ!!現時点を持って敵を海賊と断定する!!民間人を死なせてはならない!!」
艦長「足の速いのを向かわせましょう!!新鋭のクリピテラ級ならば恐らく」
クルーク「クリピテラ級に打電!輸送艦に近づく敵艦を迎撃させよ!」
指示を受けたクリピテラ級が戦列を離脱し、輸送艦群へ向かう敵艦へ突撃する。
敵艦は速度こそ速かったが、兵装の射程も威力も、強大な星間国家が建造した新鋭艦の前では特段意味を為さなかった。
突撃したクリピテラ級は、敵艦を撃沈、輸送艦群への被害を抑えることに成功したが、輸送艦も無傷とは行かなかった…
幹部「民間人の収容状況はどうなっているか!!」
通信長「現在86%!後10分程度で完了する見込みです!」
観測員「輸送艦1隻が攻撃を受け中破!!敵艦は撃沈しましたが、民間人にも被害がでています!!」
艦長「閣下、敵は兵装こそ我らに劣りはしていますが、如何せん数が多く、このまま戦闘を続けていては…」
クルーク「わかっている…。全艦へ伝達、民間人の収容作業が完了し次第、この惑星を離れる。ゲシュ=タム・ジャンプの用意をせよ!!」
艦長「緊急でのジャンプです。ジャンプ先の設定が間に合わない可能性が…」
クルーク「賭け、だな……」
幹部「中破した輸送艦へ通達!緊急ジャンプ刊行前に艦内の気密を再チェックせよ!!」
艦隊の撤退を決意した頃、通信長より全民間人の収容が完了した旨の報告が上がった。
この報告を持って、クルーク大将軍は艦隊の撤退を命令。緊急ゲシュ=タム・ジャンプを強行することになる。
しかし、撤退戦となれば、誰かが撤退援護の殿とならなくてはならない……
幹部「閣下!ハイ級"レヒター"、"ターバ"、"ヴァイン"、デストリア級前期型"キリグ"が殿に申し出てきました!」
クルーク「……、殿となれば、生きて戻ることは叶わないだろう……。彼らはそれを…」
幹部「閣下の興す、新たなる国家、その礎となれる事を誇りに思うと、皆そう言っております…」
クルーク「…………、判った。彼らの意思を無駄にはできない。4隻を殿に任命する。全艦、緊急ゲシュ=タム・ジャンプの用意!用意が整った艦より直ちにジャンプせよ!!」
クルークの指示の後、それぞれの艦艇が大気圏脱出と緊急ジャンプをするため上昇して行く。
そんな彼らを見送る様に、見守るように、殿となった4隻はその場に留まっていた
そうする内に、艦隊の行動に気がついた敵部隊は、逃げようとする艦隊を追おうとする。しかし、そんな敵を止めるために残った殿艦隊がそれを許さない。
いつかの未来、ロドルフ・クルークと云う一人の人間が興した民の為の新たなる国家、それを幻想にしない為、礎となる事を選んだ彼らは、どれだけ攻撃を受けようと折れることは無かった……
クルーク「彼らの意思を無駄にしてはならない!全艦ジャンプへ移行せよ!!」
宇宙に上がった最後の艦がジャンプしたのを確認した時、4隻居た艦艇は、デストリア前期型を残し全てが海の藻屑となっていた…
辛うじて生き残ったデストリア前期型も、損傷酷く、もはや飛んでいる状態も奇跡と言うような様で有った……
多くの同胞を沈められた恨みなのか、敵はそんなデストリア前期型を一斉攻撃で撃沈した___
そうして艦隊は、新たなる地へと歩みを進めるのであった……
ー第2話へ続く
めっちゃおもろい!
返信削除