第6.5話 荒波の陰で

 時は半日ほど遡るだろうか、首都の郊外のある屋敷にて。


「カルラディアに乾杯!」

「「乾杯!!」」


 かれこれカルラディア建国から5年、彼は自分が教師から探検家を経て、まさか最高裁判長になるとは思ってはいなかった。ポルトメルシア探検の功が認められた形ではあるのだろうが、教育方面で行くのだろうと思っていた彼にとって意外な形であった。

 そんな中、首都の郊外に私邸と私立学校を構えた彼は門下生を呼んでホームパーティを行っていた。


「しかし、まさかまだハル先が34だとは…」

「小鳥の艦長も、あの時から全く変わってませんね」

「ハルキが教職についてたのは3年間だけだったけど、それ以降も船内で先生やってたからねぇ。みんなも色々教えてくれてありがとね」

「ユーキも、ここまで付いてきてくれてありがとう」

「リア充吹っ飛べ!」

「こーら、そこ!」

「委員長ちゃん、落ち着いてって」


 その中で、遅れてきたという考古学専攻に行った元生徒が“とっておき”を持ってくるというから、それまでは全員お酒を抑えていた。

 特に慕われていたというよりは、先生として必死過ぎた人だったらしい。その中でも正しいと思った事をやろうとする、しがない新米教員だったのだ。


 だが、一つの正義というものは他の正義を抑えてこそ成立する。ある日、空の上から理不尽にも抑圧の柱が堕ちてくる事もあるのだから。


「向こう、駅の方で爆発が!」

「敵艦…あれは昔ハーマリアで」


 像と像が合う、ピントがくっきりとすると言う事はこう言う事だろう。何かを直感した先生…こと最高裁判長ハルキ・ウィンブライ・インザールは元生徒達に檄を飛ばす。


「即座にうちのシェルターを開放する、最低限この街区の人たちは入るだろう」

「せ、先生!?」

「食料は出せなくとも、防空壕にはなる。急げ!」


 空襲に逃げ惑う民衆に、インザールは自宅のシェルターを開放。そこに元生徒と共に避難誘導する。

 とてもではないが、政府高官にあるまじき行為だ。


「流石にすし詰めだね」

「しかし、私の提言通り先生用のシェルターも併設してて良かったでしょう」


 建築の道に行った元生徒が誇らしげに話す。

 だが、ここは自分の生徒を褒めたがった彼だが盟友や他の政府要職はどうなっているか、心から心配していた。歴史を知っている彼は、国が滅んだ後の悲惨な人々の事を知っていた。


「そうさね…臣民の最大公約での幸福実現、最高裁には私情を殺してやっていたが…追い詰められると人間、怒りが湧く事を思い出したよ」

「先生、一体どうするつもりで?」


 チルリ…と小さな小鳥の艦長が、彼の手の中で小さく鳴いた。ポルトメルシアで勇敢に森に立ち入った彼だが、死ぬのはやはり怖いのだ。


「首狩り戦術と思われるね、大いに的を射ている。だが、我々カルラディアがそんな矮小な民族ではない事を、ここに示さねばならない」

「先生!」


 そこに考古の道に行って、友人の下で考古学を修めた元生徒が飛び込んできた。


「見てください、これ!」

「これは…君が挑戦しているという、例の碑文か!空襲警報が終わり次第、総統府に持ってくぞ」


………


「…と言うことがあり、参陣が遅れました。面目ないです、総統…内務卿」

「構わんが、小鳥の艦長は…」

「安心した様です」


 ポケットの中で、スヤスヤと眠っている。

 前を見て、総統と内務卿を前に最高裁判長はこの先の展望を話す。


「生徒の中にジレルがいる、とお話ししましたね」

「は、はぁ…?」

「彼女は学級委員長だったのですが、今回襲ってきた連中…マッチポンプかもしれないと言っています」

「…それは私も考えていた、対策の手は打っている。奴らの好きにはさせない」

「彼らに対し、白黒を判じたい所ですが…完全に周囲とその技術の解析が出来たら、今回の事を事由に殲滅すべきかなと」


 冷や汗をかきながら、職権を超える展望を語った。


「…あくまで、念頭に置いててください。それと、我々の培っていた技術は勿論研究回しといてください。私の職権を超える事なので、どうかご内密に…」


 敵が判明し次第、ハルキは最高裁判所として静謐を保ちながらも、シークレットサービスに裏を探らせる腹積りだ。それから、カルラディアとカラーディに関する考古学的発見の発表を総統に勧めた。


 数日が経ち、碑文が学会に報告された。

 未だ小国のカルラディアの発表故、当初大国の学会は嘲笑の対象にしていた。しかし、戦国時代の様相を呈するシュウリシア銀河に於いて何が作用するかわからない。

 碑文の謎の行方は、ごく一部しか知らないという。


………


 数日が経ち、総統の大演説。

 水面下では閣僚が対応会議を行なっている。市街地、特に駅や工業地帯には炊き出しが出ている。家が壊れた人には、自治体が避難所を出していた。

 ウィンブライの私立学校も避難所になっており、その地下シェルターは一応封鎖とした。治安の悪化要因になるだろうと判断したからだ。青空の下、森のなかで授業が行われている。


 理事長兼妻のユーキは各所に謝罪行脚をしていた。

 更に元生徒たちも復興の為に東奔西走している。最高裁判所の会議以外では、ウィンブライは復興計画や都市計画に関して関係各所に問い合わせている。


「最高裁のやる事じゃないけど、臣民のピンチになった時に行政の怠慢だと言われかねないからね」

「先生、そう言うところでは?」

「これで星間情勢が少しはこちら優位になると良いけど、あくまで新興国家。どうなると思う?」

「大丈夫でしょう、そもそも制圧したいなら何故手駒を用いる必要があるのでしょう?」

「君は…本当にあの時草を食べた少年なのか?」


 肘を付き、興味深そうに珈琲を飲む。

 資料を見ながらの為、気合を入れる珈琲だ。探検隊時代よりも幾分と上等な珈琲を嗜み、更に書類仕事に邁進する。全ては臣民とこの国の平和と発展のために。

 小鳥の艦長も、ちゅるりと鳴いて彼らの力になっている。珈琲豆の豆殻を突き、そして紛れていた四足蜘を開いて、そして喰らった。

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