第7話 交渉人ジークハント
カルラン暦6年2月、海賊艦隊からの大規模な襲撃を受け大損害を被ったカルラディア帝国は、その復興に向け全力を注いでいた。
国を興してから5年と日の浅い帝国は、先の襲撃を教訓により一層の軍備も考えなくてはならない。失った戦力を補填した上でそれ以前の戦力を超える規模で。
しかし、受けた打撃は大きく復興にさえ苦慮している状況だった____
ーーーフルクファーラント大皇国ーーー
先の戦闘を主導し海賊をけしかけて来たフルクファーラント大皇国は、その戦闘の成果の報告と、以後の植民地運営についての皇王御前会議を開いていた____
宰相「本日の会議の前に、私から皇王陛下にご報告致したい事がございます。」
皇王「…述べよ、宰相」
宰相「はっ!先日の戦いにおいては、我が方の圧勝と云うべきものでありました。只…、最後のチャンスとして手を貸したあの海賊共は最早使い物にならないでしょう。多少の損害を受けただけで逃げ腰の撤退。我が国の覇道に反する行い、見逃す事は出来ますまい」
皇王「ふむ……。宰相よ、卿は何か代替があると?」
宰相「無論にございます。彼のカルラディア等、如何でございましょう?」
皇王「ほう?卿は以前、『彼奴らは侵略者であるから、排除すべき』と申していたように余は記憶しているが?」
宰相「私も考えが変わりました…。あの者等は海賊をいとも容易く返り討ちに致しました。その力は、然るべき者が然るべき時に然るべき場所で用いるべきです。このシュリウシアの外の技術を手中に収める良い機会でもあるかと…」
皇王「ほう…。見立ては出来ているのか?」
宰相「はっ、既に彼の者等に交渉の打診を済ませております。近日中には解答も得られるでしょう。まぁ、先の戦闘で主星に痛手を負った彼らには、受けざるを得ない話ですがね」
そう言うと、何とも不敵にそして気持ち悪く”フッフッフ”と笑いを零す。
その様を見ていた他の大臣等から宰相に対して小言が溢れる
右大将「いやはや、流石は宰相殿。我等には遠く及びもつかぬ様な事を良くもまあ其処まで思い付くものですな。最早…、御自分で国を興された方が良いのでは無いですかな?」
宰相「これは右大将殿、お褒めに預かり光栄の至。しかし、私めはまだまだ若輩者故、国を興し民を導く等まだまだ…。そう言えば、右大将殿に於かれては近頃何やら体調が優れぬと耳にしましてね。私としては、滋養も兼ねご隠居成されるのも手かと思うのですが…?」
右大将「おぉ!貴殿にも心配を掛けてしまっていたか。いやなに、私の体は頗る快調故ご安心めされよ。」
宰相「それはそれは、息災の様で何より。あぁ、それと皆様方、私以前から申し上げているのですが、"宰相"では無く"相国"と呼んでいただきたい」
左大将「”相国”殿はやはり器の大きい方ですなぁ。嫌味を言われた相手にさえ平等に接しているのですから。他の大臣とはいやはやは大違い」
大蔵卿「そんなに”相国”などと言う呼び名が良ければ”彼の国”へ亡命でも何でもすれば良いでは無いか!貴候は我が国では宰相であるぞ!」
刑部卿「大蔵卿、宰相殿は自分を飾っておられるのだ。”彼の国”との友好の証として彼に与えられた職名。まぁ、其処まで好きなれば彼の国で本当に”相国”とやらに成ってしまえば良いものを」
左大将「刑部卿、今の言葉は聞き捨てなりませんな。相国殿はこの国を盛り立て、過去に類を見ない繁栄を齎しているでは無いですか」
刑部卿「地獄耳が…」
皇王「皆静まれ。今日の会議はこれにて締めとする。宰相、卿にはカルラ……」
宰相「”カルラディア”にございます、陛下」
「その国との交渉を一任する。卿の見立てに間違いが無いと信じよう。必ず成功させよ。宰相及び左大将と右大将は別途話がある、ここに残れ。それ以外の者は各自の業務に戻る様に」
一同「御意」
ーーーヴィルディアーーー
クルーク「マリウス、一つ相談があるのだが」
トイアー「何でしょうか、閣下」
クルーク「先の本土襲撃で、我が国は海賊達にすら辛勝がやっとである事を実感させられた。無論国軍は増強する。親衛隊にもリソースは惜しまない。それは良い。しかし中央官庁や地方の政治拠点、そしてそこにいる大臣や官僚を守る為の組織がないのだ」
トイアー「それらに対応するのは国軍や警備局の務めでは?」
クルーク「あぁ、確かにその通りだ。寧ろそれが正しいのだが…。今我が国が総力戦となった時、軍や警備局はそれらに対応しきることが難しいと考えた。我等がガミラスを離れる頃に彼の国で組織された”武装警察”に類する組織が我が国にも必要では無いかと、私は思うのだ」
トイアー「なるほど。しかしなぜ突然?仰られた事の意味は理解できますが、今は経済復興と軍備増強を優先すべきと考えますが…」
クルーク「実は、先の閣僚会議で提言が有ったのだ」
トイアー「閣僚会議で?私はそのような事は記憶していませんが……」
クルーク「先日君に休暇を取らせた時の事だからな。秘書の……まーりゅ君?マリュリア君…?が代理で出席したはずだが、聞いて居ないか?」
トイアー「マリュリアが…?そう言えば何か言っていたような……。すみません、あの子を愛でていた事は覚えているのですが……」
クルーク「なぁマリウス」
真剣な、いや深刻そうな表情をしながら
トイアー「はい?」
クルーク「なぜ猫(?)の筈のまーりゅ君?が君の秘書もやっているのだ?というかあの子動物何だよね!?何でヒトの姿が出来るの!?」
トイアー「それは………、そういう物とご理解下さい」
稀に見る満面の笑みで特に根拠が無いことを嘯く姿を見たクルークは、いつもの真面目なマリウスがここまで懐柔されている姿を見て内心ズッコケていた
クルーク「ま、まぁその事は良い。とにかく、その武装警察に類する組織を総統府直轄の警備隊として編成して欲しい。」
トイアー「はっ!承知致しました!」
クルーク「それとな、その警備隊だが、その指揮は君に任せる」
トイアー「はっ!!………は!?」
クルーク「うむ、声の通った良い返事だな。早速だが…この書類に君のサインを頼む」
トイアー「そ、総統、少しお待ち下さい。警備隊を私が運用するのですか!?」
クルーク「そうだ。名目上は総統府直轄だが、実質的には君の直属組織となる」
トイアー「おおおおおおおお待ち下さい!それは余りにも、余りにも私の職権を逸脱しております!!私の職務はあくまでも内政。政を担う立場であります!」
クルーク「では君は、他に誰か適任者が居ると?」
トイアー「………1人、居るやもしれません…」
クルーク「ほう?どなたかな?」
トイアー「私の副官、ライノア・ミクラスです。彼ならば警備隊の運用もできましょう」
クルーク「ミクラスか……。確か君の弟分だったな。……大丈夫なのか?」
トイアー「大丈夫、とは?」
クルーク「彼を優遇する為に言い出した訳では無いのか?ということだ」
トイアー「その様な事はありません。彼は独学で用兵術を学び、今やその知識は本職に並ぶ程です。彼の知識を活かす機会があるのであれば、これこそ絶好の場だと思いまして。」
クルーク「うむ…、良いだろう。只私は彼について余り知らない。よって、一度彼と話をする場を設けさせて欲しい。」
トイアー「承知しました。ミクラスにもその事を伝えておきましょう。」
クルーク「すまん。それから話は変わるが、…フルクファーラント大皇国なる国家が我が国に支援の用意があると連絡してきた。」
トイアー「ではやはり…」
クルーク「あぁ、推測の通りだったよ。恐らくその国が海賊のバックだ」
トイアー「マッチポンプ……。良くもまぁぬけぬけと」
クルーク「そう言うなマリウス。今の我々は、使える物は何でも使わなければならない。この交渉には、私が赴こう」
トイアー「それはなりません、閣下!幾ら向こうが友好的に見せてきても、敵であることに変わりはありません。貴方を失えば今の我が国は瓦解します!」
クルーク「ふむ…、だれか良い相手が居ると?」
トイアー「こういう時こそ外務大臣の出番です。ジークハントであれば良い結果を持ち帰ってくれるでしょう。」
クルーク「ジークハント君か…。任せて大丈夫なのだろうね?」
トイアー「閣僚に最年少で選ばれるだけの実力はあると考えます。」
クルーク「良いだろう。ジークハント君に総統からの勅命として直ぐに伝えて欲しい。会場は近傍の浮遊要塞”ショーゲツ”だ」
トイアー「はっ!」
こうして、外交交渉という名の戦いが幕を開けた。
ーーー浮遊要塞ショーゲツ島ーーー
カルラン暦6年3月15日、カルラディア帝国はこの銀河で初めて他文明との外交交渉に臨む事になった。
復興支援を申し出てきたのは、フルクファーラント大皇国。
総統府上層部で、海賊のバックと目されている国である。
指定された宇宙港にジークハント等使節団が赴くと、其処には既に使者と思しき人物が居り、ジークハント等を見るや否や両手を広げ歓待の意を示すかの様に話しかけてきた。
使者「ようこそおいでくださった!カルラディアのお方よ!」
ジークハント「使者殿ですかな?私はカルラディア帝国の外務大臣、シュルツ・ジークハントと申します。この度は我が国への復興支援の申し出、心より感謝を申し上げます。」
使者「外務大臣?総統とやらがいらっしゃらないのかな?」
ジークハント「…使者殿、その総統"とやら"という言い方はやめていただきたい。」
使者「おっとこれは失敬」
ジークハント「我等は貴方方と比べれば弱小も弱小でしょう。しかし、我が国も総統を戴く一主権国家です。規模的に見れば対等とは言えませんでしょうが、主権国家と云う立場で見れば対等な筈。お互い誠意のある交渉を心掛けたい。」
使者「貴殿の思い心得た。しかし私が聞きたかったのは、なぜ総統ではなく外務大臣のそなたなのかということだ」
ジークハント「帝国の外交に関しては基本的に私がお預かりすることになっていましてね。此度の会合も、総統閣下より私に一任されここに居ます。」
多少の会話を終えた後、使者とジークハントを乗せた車が発進し会場へと向かい出す。
使者「そなただけに自己紹介をさせてしまったようですまぬな。私はフルクファーラント大皇国の”相国”クーゲルン・デ・ティーラーだ。此度は皇王陛下より勅命を拝受し交渉に参った。」
ジークハント「しょうこく?本日来られるのは”宰相”殿であると記憶しておりますが…」
ティーラー「あぁ、私がその宰相だ。相国というのは、私が気に入って使用している職名でね。以前国交を結ぶべく私が交渉に赴いた国では、宰相をその様に呼んでいる様でな。彼の国は敬意を持って私をその様に呼んでくださったのだよ。貴殿も是非とも私のことを”相国”とお呼びいただきたい。」
ジークハント「そうでしたか。ところで”相国”殿ここは市場か何かで?」
ティーラー「左様。まぁ、市場と言っても、所謂闇市場だがな」
ジークハント「闇市場!?なぜその様な所で」
ティーラー「ここはマズロアという小領主が仕切るマフィアの拠点で、貿易と金融を生業としておるのだ。ここの者共は信頼と信用を重んじる。彼らが監視役として会談に立ち会えば、互いに誠実な話し合いができるだろう?」
ジークハント「こちらはもとよりそのつもりですが。よもや貴国には何か企みがあると?」
ティーラー「はっ!ジークハント殿は面白い事を申される!!ハハハ!!我が国が謀など!ハハハ!!」
ジークハント「そうであると願いたいものですな…」
道中互いの腹の内を探りつつ、島の中心地にある料亭に到着し会談が始まった。
ティーラー「さて…早速本題であるが」
相国が話し始めた途端、先ほどとは打って変わって場の空気がピリつく。
ティーラー「貴国は、ハーマリアに巣食う海賊共に手酷く攻撃を受けたようですな。」
ジークハント「…相国殿はお耳がお早いようで」
ティーラー「”偶然”!我が国の調査艦隊がカラーディ近傍を航行中でね。星系の観測を行っている所に引っかかってきたのだよ。他国間の戦争故に我が国が介入できず、貴国が痛手を被ることに成ってしまったのは非常に心が痛む……。そこでだ、近傍に居ながら”手助け”が出来なかった詫びと言う訳では無いが、復興に向けた支援を申し出たいのだ」
ジークハント「ありがたいご提案でございます。その申し出、是非お受けしたく思うのですが一つ、なぜ貴国の艦隊が星系近傍で調査航海されていたのかが気になります」
ティーラー「ん?まぁ、最近流れてきた貴国らは知らぬかもしれんなぁ。我が国は皇王陛下の下で17の星系を支配する大国である。まぁ、その内の8つは私との交渉で自ら配下と成ったのだがな。貴殿も”優秀な”外務大臣であるならば判る筈だ。自らの持つ領土の直ぐ側に”得体の知れない何か”が居を構えたとなれば、安全保障の事も考え調査に赴くというものだろう?」
ジークハント「なるほど、いや全く、仰られる通りです。只…先程から”最近”と仰っていますが、我らがシュリウシアで国を興したのは、もう5年も前になりますが……何故今更調査に来られたのですか?」
ティーラー「……それは我が国の内政に関する事ゆえ、お話しする訳にはいかん。貴国はその様な事も理解できないのかね?」
ジークハントが外務大臣に任命されたのは弱冠27歳の時であった。
彼がその若さで外務大臣に任命されたのは、彼に人の変化を機敏に読み取ることの出来る深い洞察力が備わっているからであった。
カルラディア帝国では、総統・閣僚陣の中で既に"フルクファーラントなる国家こそ海賊のバックであろう"と言う事が認識として広まっており、今回の交渉でその真偽を確かめる事も、彼の使命の一つであった。
先の彼の発言に対するティーラーの反応の変化は、彼の、いや総統の疑心を確信へと変えるに足るものであった。
ジークハント「……、確かに仰る通りです。軽率な発言であったことを謝罪致します。」
ティーラー「ふんっ、流石に気分が悪い。悪いが、まぁ良い。興りたての国はその程度の物だろうな。私は寛大故、この不敬は水に流そう。」
ジークハント「感謝致します。……ティーラー殿、ここだけの話ではあるのですが……」
ティーラー「ほう?何かな?」
ジークハント「実は……我が国のとある機関が、海賊の裏には大国の支援がある事を掴んだのです。それも、かなり大規模な国家の様でして…」
ティーラー「な、なんだと!?!?いい、一体何処からそんな情報が…!」
ジークハント「おや?どうされましたか?相国殿。私は只”海賊の支援国家が居る”としか言っていませんが?」
ティーラー「貴様!我輩を嵌めたのか!!」
ジークハント「妙な事を申される。まるで海賊が貴方方の手下だったかの様な言い草だ。…もしや、海賊を支援していたのは貴国なのでは?」
ティーラー「ち、違うわ!!あのような役立たずの海賊など、誰が使うものか!!」
垂らしていた釣り糸に獲物が掛かったのを確認するや否や、ジークハントは一気に攻勢に出た。
ジークハント「それではボロを出したも同然ですよ、"宰相"殿?やはり貴方方が海賊を支援していたのですね。どうにも"宰相"殿はこういった交渉には不向きの様だ。」
ティーラー「貴様ぁ!我輩を愚弄するか!!」
ティーラーが銃を取り出した刹那、ジークハントがこれを取り押さえ、さらに追い詰める。
ジークハント「"宰相"殿、誠実なる交渉の場に物騒な物を持ち込むとは…、貴方には…いえ貴国には外交常識が無いのですかな?」
ティーラー「…我が国を侮辱するか!弱小国家の分際で!!」
ジークハント「交渉の場に銃と云う圧倒的な兵器があればそれを使いたくなるのは道理。一度冷静になられるべきだ。今の貴方は愚の骨頂ですよ。…マズロアの方、相国殿を席に」
マズロア家の者が、ティーラーを席につかせ銃を預かる。
ジークハント「貴国の申し出、我が国としてはありがたくお受けさせて頂きたく。只…支援を受ける上で条件があるのでしょう?我が国には貴国の条件を受け入れる用意が御座います。」
ティーラー「ふん!身の程を弁えているようで何よりだ。我が国から貴様らへの要求は3つ。支援物資補給に併せて我が国の特務艦隊をヴィルディアへ駐留させる事。我が国の勢力拡大寄与の為、後日指定する星系の制圧。そして、貴様らの所持戦力の制限だ。」
ジークハント「なるほど……植民地に近い扱いを受けると云うことですね。しかし、どうにも我等の事を見くびられている様に思う。その様な条件を受けて我等が反旗を翻すとはお考えになられないのですかな?」
ティーラー「ふんっ、そうなれば貴様らなんぞ殲滅して星系を掌握するのみだ」
部下「宰相閣下!陛下とのお約束を反故にされるお積もりなのですか!?」
ティーラー「なぁに、反逆と云う大義名分があれば、幾ら陛下と言えども吾輩の行いに口は出せまいよ。」
右大将「今の発言、聞き捨てなりませぬぞ、"宰相"殿」
ティーラー「何者だ貴様!相国足る我輩に不敬では無いか!!」
ティーラーに批判を述べた同行者が、隠していた顔を顕にする。
其処には、彼にとって以外な人物が居た
右大将「我が皇王陛下より、此度の議論に際して私も秘匿で同行せよと密命を拝しましてな?いやはやは、陛下にすら信頼されてないようで、お労しや"相国"殿?」
ティーラー「き、貴様!右大将か!!吾輩が貴様の右大将昇進を陛下に口添えしてやったと云うのに、その恩を仇で返すと云うのか!!」
右大将「ははは!これはけったいな事を申される!最早その歳で痴呆に成ったか、ティーラー?」
ティーラー「き、貴様ぁ!!」
右大将「私の右大将昇進は、陛下御自ら取り立てて下さった事なれば。貴殿は陛下に取り入る為便乗されただけだと云う事をお忘れかな?」
ジークハント「……どうにも貴方方の内情は複雑な様だ。どうでしょう、此度の交渉は一度締め、また後日改めて行うというのは」
ティーラー「ジークハント殿は良い事を申される!!いや全くその通り!訳の判らぬ老害が居ては話す話も出来ぬというものだ!!」
右大将「それではティーラー宰相はお帰り頂いて結構です。以後の交渉は私めが受け持ちます故。」
ティーラー「何を寝ぼけた事を言うか!!これは吾輩と陛下が」
激昂し冷静さを失ったティーラーの首筋に、右大将と呼ばれた者がハンカチを当てた途端、ティーラーは意識を失ったかのように眠りについた。
右大将「これ以上余計な事は喋らなくて宜しい。…ジークハント殿、お見苦しい所を見せてしまい申し訳無い。私はフルクファーラント大皇国の右大将…所謂近衛副長官です。今用いたのは我が星で採れた、麻酔作用のある植物エキスです。ご入用で?」
ジークハント「丁寧なご挨拶痛み入ります。生憎と私はそういった物は使わない主義ですのでご遠慮させて頂きます。」
右大将「そうですか、大変便利だと云うのに残念です。…彼は激情型故、纏まりかけた話がパーになる事も屡々見られるので、皇王陛下から私が監視も兼ねて遣わされた次第です。貴国への支援はお約束通りさせて頂きます。ご安心を」
ジークハント「ありがとうございます。なんとお礼を申せば良いか…」
右大将「無論、先程彼が申し上げた通り、我が国からの条件を呑んで頂くことが前提ではありますが。……先程の条件に加えてもう一つ、我が国は貴国からの技術供与も求めます。貴方方カルラディアの民は遠くマゼランの出身だとお伺いしております。我が国の覇道の為、是非ともご協力願いたい。」
ジークハント「先の3条件に関しては承諾致しましょう。しかしながら最後の条件だけは承諾しかねます」
右大将「ほぅ?」
ジークハント「貴国には過ぎた力ですから。」
"カチャ"と銃を構えた音がしたと同時に、ジークハントの後頭部に銃が突きつけられる。
先程ティーラーから銃を取り上げたマズロアの者が銃を向けたのだ。
ジークハント「これは…どういうことかな?」
マズロアの者「貴様らの技術は、大皇国との約束で俺等も用いる事となっている。つべこべ言わずに承諾しろ」
ジークハント「過ぎたるは及ばざるが如し、という言葉を君は知っているかな?」
マズロアの者「……それぐらい知っている。貴様、何が言いたい」
ジークハント「マゼランの技術は、星を渡るだけでなく、星を滅ぼす事さえ可能な物だ。只のマフィアである君達が星を破壊するとでも云うのかな?」
マズロアの者「…………」
ジークハント「それよりも、我がカルラディアの統べる領域にある希少資源の方が君達の益になると思うけれどね?」
マズロアの者「……5割だ」
ジークハント「厳しい事を云う…そうだな、全体採掘量の2割5分でどうかな?」
マズロアの者「…それなら認められないな」
ジークハント「ふむ…なら3割でどうだろうか?流石にこれ以上は無理だ」
マズロアの者「…良いだろう。全体採掘量の3割で乗ってやる!」
ティーラー「貴様、裏切る気か!!」
右大将「どうもお早いお目覚めですな」
ティーラー「貴様に用は無い!!」
そう言い放つと同時に宰相が右大将を殴ると、当りどころが悪かったのか、その場に倒れ気絶してしまった。
マズロアの者「閣下、悪いが俺等は星を滅ぼす力なんて物は別に欲しくもない。それであれば希少資源の方がよっぽど価値がある。」
ティーラー「ここで寝返られては困るのだ!」
マズロアの者「あんたらは俺達が欲しいと言った希少資源を『採掘出来ぬ故与えられない』とか吐かしたよな。その癖希少資源を懐に蓄えている事を俺達が知らないとでも思ってるのか?」
ティーラー「ふん!事実貴様らの様なならず者にやる様な資源は持ち合わせていない!」
マズロアの者「だったらこっちからもはっきり言ってやる。俺達の益にならないものは"ゴミ"同然何だよ!持っても意味のないものを誰が持ちたがる!!」
ティーラー「ゴミだと!!」
マズロアの者「事実だろうが!てめぇ等の利益になるだけの物は俺達にとっちゃゴミだろうが!」
ティーラー「貴様…、吾輩がどれだけ貴様達に良くしてやったのか忘れたのか!!金も与え、力も与え、女も与えたと云うのに、その恩を忘れたとは言わせぬぞ!!」
マズロアの者「知らねぇな!!てめぇの独断でやって来た事だってのは裏が取れてんだよ!!てめぇの国に対してなんかしてやる義理なんざこっちは持ち合わせちゃ居ねぇ!!」
ジークハント「黙れ!!」
1人様子を見ていたジークハントがしびれを切らし口論に介入した。
ジークハント「大前提として!!誠実にて対等なる交渉の場に於いて立ち会わせたる者を自らの側に付ける等言語道断!!貴殿は自身のお立場が国の品位を左右する事を理解しておいでか!!」
ティーラーは激昂したジークハントの圧に怯み黙り込んでしまった
ジークハント「…ティーラー"宰相"殿、貴国から他に要求はお有りか?」
圧を崩さずジークハントが問いかけると、ティーラーはしどろもどろになりながら回答する
ティーラー「わ、我が国から貴様たちへの要求は、既に述べた通りである。さ、先程右大将が述べたとはお、思うが、ま、マゼランの技術の提供を陛下はの、望んでおられる。ど、どうだ?4つ目の条件を呑めばわ、吾輩から陛下に口添えなぞ…」
ジークハント「口添え結構!如何なる理由があれど、宇宙の秩序を見出しかねない者に星を砕く術を渡すことは断じて出来ない!」
ティーラー「そ、そうか…、ま、まぁ良い、気が変わっても受けてやらぬがな」
ジークハントの圧に完全に屈してしまったティーラーには、本来強く反論しなければならなかった所を、物語に出る小物の様な言葉を吐くことしか出来なかった
ジークハント「以上で宜しいですかな。それでは此度の交渉は終わりに致しましょう。有意義な話し合いが出来て何よりでした、"宰相"殿」
ジークハントの一声で、この外交交渉とは思えぬような話し合いは幕を閉じ、その場にて両国間の密約が交わされる事と成った____
ショーゲツ島を去る直前、港にて帰国の艦に乗り込もうとしているジークハントに、1人の少女の姿が目に止まった。
ジークハント「お嬢ちゃん、この艦が気になるのかい?」
孫娘「この艦…この銀河のものではありませんわね?」
ジークハント「ん?判るのかい?」
孫娘「貴方がたは?」
ジークハント「私はカルラディア帝国の外務大臣、シュルツ・ジークハント。惑星ヴィルディアに住むカルラディア帝国の民だ。君は?」
孫娘「私は…只の町娘ですわ」
ジークハント「ふむ…、何か事情があると見た」
孫娘「?」
ジークハント「だってそうだろう?そんな高貴な佇まいをした町娘が居るものか」
港にて麗しい町娘と話をしていた所、ショーゲツの民特有の民族衣装を着た女性がジークハントに近寄ってくる。
マズロアの巫女「カルラディア帝国の外相、ジークハント殿ですね?」
ジークハント「……貴女は?」
先程の少女への名乗りを聞いていたのか、敵意を見せずジークハントに話かけてきた。
巫女「私はこのショーゲツで巫女をしている者。訳は聞かず、何も言わずにこの娘をカルラディアへ引き取ってはいただけないでしょうか?」
ジークハント「ふむ…、二つ返事で了承することは私には出来かねますね」
巫女「彼女は確かに高貴の出ながら国に居場所は無く…、加え、宰相殿含めフルクの民に彼女がここにいることは知られては成らぬのです。」
ジークハント「……どうにも複雑な事情の様だ。彼女を我が国へ連れて行く事が救いとなるのなら、私も吝かではありません」
巫女「貴方の宇宙の様に広い懐に、心から感謝を……」
こうしてジークハントは、交渉の結果に加えて以外な存在と一緒に帰国する事と成った____
ーーーヴィルディア 総統官邸ーーー
ジークハント「…以上が今回の交渉の顛末と結果になります」
クルーク「戦力制限か…、覚悟していたとはいえ、いざという時の事を考えると不安だな」
ジークハント「彼の国には『我が国の艦隊整備能力は本星のみ。他惑星は未だ開拓中である』と伝えています。あの宰相であれば容易に信じるかと」
クルーク「流石マリウスが信頼を寄せるだけはあるな。」
ジークハント「技術開発局の主力はハーデッシュベルトに移されるのが宜しいかと。あの星であればガスによるカモフラージュも可能ですから」
クルーク「そうだな。彼らの支援が来る前に一度閣僚会議で意見を募ろう。」
ジークハント「…それと総統。この娘についてなのですが……」
ジークハントの側で、彼が連れてきた娘が控え、その事情を説明した。
この娘は後に、ロドルフクルークの養子としてクルーク 一家に迎え入れられる事になる。
フルクファーラント、いずれ討つことになる相手ではあるが、今はまだその時では無い。
しかし、機会は必ずある。カルラディアは虎視眈々とその時を待っているのだ____
第8話に続く
コメント
コメントを投稿