第8話 歩く火種、泳ぐ災厄

ティーラー「あぁ゛、頭に来る!右大将と言いジークハントと言い!……おい、其処の」

部下「お呼びでしょうか、宰相閣下」


呼び止められた部下がティーラーに対し返事をしたその途端、何かが頭に来たのかその部下の眉間を銃で撃ち抜き、撃たれた部下は青黒い血を額から流しながらその場に倒れる


ティーラー「はぁ…出来の悪い部下を持つと苦労する。吾輩の事は"宰相"では無く"相国"と呼ぶように言っておったではないか。おい其処の、この"木偶"の処理をしておけ、血の一滴も残すなよ?指示はしたからな」

部下「は、はい!ただちに!!」


ティーラーに対する部下達からの評価は最低の一言に尽きていた。

気に食わぬこと、過ちをおかした者、全てをその手で殺めてきたからだ。

国内の上位階級者の横暴は皇王も黙認しており、そういった姿勢に対して国民や臣下達の不満は募る一方であった。


ティーラー「おい貴様」


先程指示した部下とは別の人間に声をかけ呼び止める。

彼ら上位者の呼び止めを無視してはならない。フルクファーラントの上位者の呼び止めを無視すれば、其の者はその場で処断され、最悪の場合は一族郎党皆殺しになるからだ。


部下「は、はい」

ティーラー「確か貴様には年頃の娘が居ったな?」

部下「は、はい。先日で齢23となりました…」

ティーラー「ほう?……ふむ、良いだろう」

部下「?」

ティーラー「今夜その娘を寝室へ連れて参れ、吾輩の夜伽の相手としよう」

部下「そ、そんな!お待ち下さい相国様!娘は先日婚約が決まったばかりなのです!どうかお慈悲を…!」

ティーラー「ほう?尚の事良いでは無いか。未経験の下手くそでは床入りの際に相手から嫌われてしまうだろう?そうならないよう経験を積ませてやろうと言うのだ。…それとも貴様、吾輩の行いに異を唱えると言うのか?」


そう言いながら懐の銃をチラつかせて部下を脅迫する。

部下達に銃の携帯は許可されていない。銃の携行を許されているのは勤務中の軍人と警察、政府要職者のみ。生身では抗うことの出来ない状況に、話を振られた部下は従う他無く


部下「し、承知致しました…。今夜娘を連れて参ります…」

ティーラー「判れば良いのだ。逆らえば先の"木偶"の様になって居ったぞ?賢い部下で助かったわ」

秘書官「…相国様、カルラディアへの駐留艦隊の件、如何なされましょう?」

ティーラー「あ?あぁ、そうさな……。まぁあ奴らにまともな艦隊を差し向けてやるような義理も無いか…。確か…素行不良で軍の厄介者扱いされていた奴が居たな、何と言ったか…」

秘書官「イズィーラ・カンツの事でしょうか?」

ティーラー「おぉ!そいつだ。そのイズィーラとやらを相国権限で艦隊司令にしよう。イズィーラ含めた軍の厄介者共を駐留艦隊に編成するのだ。軍も厄介払いが出来て清々するだろうよ。」

秘書官「では、その様に手配致します。」

ティーラー「うむ。あぁそれとな、艦隊は老朽艦で構成しておけ。今に使い物に成らなくなる様なポンコツ共をこれでもかと組んでおけ。奴らの態度が変わるまでな」

秘書官「……承知致しました」


交渉を自分優位に進められなかった事、弱小国カルラディアの一外相に良いように踊らされた事を根に持ったティーラーは、約束を守る様に見せつつ嫌がらせをすると言う姑息な手段を取った。そういった行いしか出来ないのが、彼という人間の限界なのかも知れない____


ーーーヴィルディア 宙軍本部ーーー


幹部「ファルノス、ヒメルティーア間の惑星間空間に次元震感知。フルクファーラント大皇国艦隊のジャンプ・アウトと思われます。」

クルーク「予定通りか。まぁ、彼の国の事だ、まともな艦隊では無いだろうな…」

シナノ「しかし、これで当面はトラブルが有っても彼らが対処してくれるでしょう。経済復興を優先できることは救いです」

クルーク「うむ。…シナノ参謀長」

シナノ「なんでしょう。」

クルーク「フルクの艦隊を出迎えよ。いけ好かぬ相手であっても、礼節を欠く様なことはしたくない」

シナノ「はっ!」


ーーー駐留艦隊ーーー


カンツ「ここがカラディリア?とか言う国の惑星か。宰相の奴も辺鄙な所に飛ばしてくれたものだぜ」

副指揮官「カルラディアですよ、司令。」

カンツ「あーそれだ。まぁ良い、ここじゃあ本国の目も無ぇ、自由にやらせてもらうとするか」

副指揮官「艦隊前方に感、出迎えの艦隊の様です」


ーーーヴィルディア 宙軍本部ーーー


シナノ「デストリアを旗艦としつつ残存艦を集め出迎え艦隊を用意しろ!艦隊司令はセト大将とする。直ちに伝達せよ!」

幹部「了解!」

シナノ「海賊のバックに居た国家だ。何を仕出かすか判らんからな。全艦警戒体制で行かせる様厳命せよ。」


メルトリア級を除く残存艦艇群からデストリアを旗艦として、フルクファーラント大皇国派遣艦隊への出迎えを行う。

ヴィルディアの月軌道上で臨時艦隊と駐留艦隊指揮官が本星駐留に向けた事前会談を執り行う事と成った。


セト「遠くからはるばるお疲れ様でした。我が国は貴艦隊を歓迎居たします。私は本艦隊司令のベルンシュタイン=フクス=セトと申します」

カンツ「私はフルクファーラント大皇国軍イズィーラ・カンツである。貴国の出迎えに感謝する。して、我等はこれからどうすれば良いのかな?」

セト「ヴィルディアの静止軌道上にて待機をお願いしたく。到着の後、今後について総統と会談していただく手筈となっております。」

カンツ「ここまで来てまだ待たせると云うのか貴様らは」

セト「総統も忙しいお方なのです。ご理解頂けますと…」

カンツ「まあ良いさ。さっさと艦隊を移動させるとしよう」


指揮官同士の話し合いのさなか、臨編艦隊では駐留艦隊に対してスキャニングが行われていた


デストリア級艦長「やはりコイツら性能が大分低い艦だな」

デストリア級副長「連中に我等を守る気等無いと云う事でしょうか?」

デストリア級艦長「多分な。総統府に連絡の用意を。セト司令が戻り次第状況を伝える」


指揮官会談から数分。セト大将が駐留艦隊旗艦から戻ってきた


セト「奴ら、明らかに我々を見下している。指揮官だけじゃない。乗員全員といって良いだろうな。どうにも我が国を守る為に来た訳ではなさそうだ」

デストリア級艦長「スキャン結果では、艦隊は2世代程前の艦艇で構成されている様です。場合によっては海賊艦にも劣るレベルです。どうされます?総統にご報告しますか?」

セト「頼めるか?艦長。私は少し休むよ。彼らとは会話するだけでも疲れる…」

デストリア級艦長「承知致しました。司令はごゆっくりお寛ぎ下さい。」


臨編艦隊指示の元、駐留艦隊はヴィルディアの静止軌道上に移動し会談の通りその場での待機と成った。

一方で、臨編艦隊からの報告を受けた総統府では、以後の会談の内容・対応を大幅に変更することを検討する事になった


ーーーフルクファークラント大皇国ーーー


セト司令とカンツ司令が会談をして居る頃、少し遅れてフルクファーラント本国にも駐留艦隊ヴィルディア到着の連絡が行き届き、『彼奴らの件で届く情報は常に吾輩の元へ一番に届けよ』と指示を受けていた秘書は、夜分ながらティーラーの私室へ足を運んでいた。


秘書「閣下、お楽しみ中に失礼致します。カンツ司令より、駐留艦隊がヴィルディアへ到着したと連絡が有りました。」

ティーラー「ん?あぁ、厄介者艦隊か。カルラディアの奴ら、今頃彼奴らに手を焼いているだろうな。いやぁ気分が良い」


心の底から気分良さそうに笑い、笑いながらベッドの上でぐったりして居る女子の体を叩く。

少し気を失っていたのかその女子は叩かれるとハッとしたように目を開き、怯えたような目でティーラーを見た


娼婦の女「お、お赦し下さい相国様。もう私は限界にございます…、どうか、お赦しを…」

ティーラー「何を言っておるのだ?貴様は。夜はまだまだこれからよ。先日の女子は直ぐにヘバリおった所為で吾輩は満足出来ておらぬのだ。国一の娼婦たる貴様を吾輩が大金を叩き"態々"指名してやったのだ。まだまだ付き合って貰うぞ」


フフフと下卑た笑みを浮かべるティーラーに対して、秘書は表情を変えず内心でこの下品で品性の無い男への嫌悪感を強く感じていた。


秘書「それでは私はこれにて失礼致します。またご報告すべき事が有りましたら参ります。」

ティーラー「何だ、貴様は愉しんで行かんのか?望むのであれば一回は貴様にも貸してやるぞ?この女子を」

秘書「………いえ、私は結構に御座います。」


秘書は「あぁ、夜明けまでのあと数時間はこの娼婦にとって最大の地獄だろうな」と内心想い軽く憐憫の気持ちを持ったものの、特に何をするでも無く私室を後にした____


ーーー総統府ーーー


駐留艦隊がヴィルディア静止軌道に待機してから2時間。ようやくカンツが総統府へと招かれ、総統との会談が行われる事となった。


トイアー「遠いところからようこそおいでくださいました。私は内務卿のマリウス・シュトラス=トイアーと申します。」

カンツ「ん?総統とやらとの会談ではないのか?」

トイアー「総統は今時間の調整中ですので。それと、その"とやら"等と云う物言いは辞めて頂きたい」

カンツ「はいはい、悪かったよ。それで?いつ総統サマとは会えるんだ?」

トイアー「申し訳ありませんが今しばらくここで待機を」

カンツ「あ?まだ待たせんのか…」


ーーー応接室ーーー


トイアー「閣下!駐留艦隊の指揮官が部屋の表でお待ちです。」

クルーク「うむ。ジークハントはまだか?」

幹部「まもなく来られるとの事です。」

クルーク「了解した。トイアー、指揮官はどんな様子だった」

トイアー「セト司令の話通りの男ですよ。明らかに閣下を見下しています」

クルーク「彼の国の連中は他者への敬意と云う物を持ち合わせていないのか…?」

トイアー「どうされますか?」

クルーク「追い返したい所ではあるが…」


バタンと扉を勢いよく開ける音が応接室に響く。

開いた扉を見ると其処には外務大臣のジークハントが立っていた。


ジークハント「追い返してはなりません閣下。まだ事を起こす時期では無いのです。今我々が下手に動けば、彼の国の力で一捻りでしょう。」

クルーク「その通りだな。いずれ反抗に出る時期も来よう。トイアー、ジークハント、君達に今日の会談は任せたい。構わないかな?」

ジークハント「承知致しました。総統は隣で待機して下さい。」

クルーク「すまんが任せるよ。」

「「はっ」」


クルークが隣室へ移動し、鍵が掛かったのを確認すると、ジークハントが待たせていたカンツを呼び寄せ、会談が始まった。


トイアー「指揮官殿、大変申し訳無いのだが、此度の会談は私と外務大臣にて執り行わさせて頂きます。」

カンツ「あ?総統サマじゃねぇのかよ、どういう事だ?」

ジークハント「総統閣下は現在国務大臣との緊急の会合が入りまして、生憎席をはずず事となりました。指揮官殿とは又後日会談の機会を設けさせて頂きます。」

トイアー「早速ですが、我が国は先の海賊の攻撃によって大きく戦力を喪失して居る状態にあります。貴艦隊はそれによって出来た穴を埋めていただける存在と認識して宜しいですかな?」

カンツ「あぁ、そうらしいな。んで?俺らは何処に行きゃぁ良い訳?まさか軌道上に居続けろ何て言わねぇよな?」

トイアー「無論です。我が国の為に体を張って頂く方を無碍には致しません。帝都近傍の都市ヴィラーディの郊外に比較的損傷の少ない宙軍基地があります。其処を我が軍との共用でと云う形にはなりますがご利用頂ければと」

カンツ「そいつはありがてぇ。」

トイアー「それでは、内容に問題無いようで有りましたら、こちらの同意書にサインをお願い致します。」

カンツ「面倒だ。うげ、内容も滅茶苦茶書いてあるじゃねぇか…、こういうの読むの苦手なんだよ……。取り敢えずサインだけしとくわ」

トイアー「……我が国に滞在する上での取り決めも記載しております故、どうかご一読いただけませんか?」

カンツ「あー、コピーしたのを後でくれや。部下にもそれ渡すからよ」

トイアー「………、マリュリア、後でコピーを頼む。」

マリュリア「艦隊幹部分のみではありますが既に完了していますよ、閣下。」

トイアー「おぉ!さっすがマリュリア!いい子だなぁ」


トイアーが秘書マリュリアに蕩けている間に、ジークハントの方から別の話題を切り出す


ジークハント「続いて、我が国に設けられる戦力制限についてなのですが」

カンツ「あ?なんだそりゃ」

ジークハント「ティーラー殿からお聞きではない?」

カンツ「あーー、どうだったかな。確かそんな事言っていた様な……」

ジークハント「………以前の外交交渉の際に、艦隊を駐留させる上での条件と言う事で貴国に対し武力行使に出ぬように一定の戦力へ制限し、各軍事施設を監視すると云う話が有ったのですが…」

カンツ「あー、総督がそんな事を言っていたな。確かその件に関しては俺に一任されるって話だ。只…、俺は面倒は嫌いでよ。なんかこう、楽に監視出来るような設備とか無ぇ訳?」

ジークハント「我が国にその様な物は…」

トイアー「警務省空警局所有の監視衛星があります。そちらでも宜しければ」

カンツ「何だ、随分良さそうな物持ってんじゃねぇか。そいつを拝借するとしよう」

トイアー「承知致しました」


こうして話し合いは終了した。

しかしジークハントは見逃していなかった。最後に使用の承諾をしたトイアーが不敵に笑っていたことを____


カンツとの会談から数日、帝国政府閣僚と軍上層部により戦力制限についての会合が行われていた


クルーク「さて諸君。非常に認め難い事ではあるが奴等からの戦力制限を受け入れる事になった。……まぁそれは良い。しかし奴等は信じられん事に、監視用の機材を持参せずあまつさえ我等に機材を貸し与えろと言ってきた。」

ジークハント「先の会談では、内務卿より空警局の偵察衛星を貸し与えると云う話で決着が着きました。」

トイアー「空警局の偵察衛星は本星のみの配備ですから、現在進行中の5001計画に支障は来さないかと」

クルーク「確かに本星のみの監視であればハーデッシュベルトまで目は行き届かんか……、しかし、奴等もヴィルディアだけを監視するほど間抜けではなかろう。ハーデッシュベルトは技術開発局の研究惑星となっている星だ。臨検でもされれば直ぐに皮が剥がれるだろう…」

シャーフ「其処については、既にハーデッシュ各施設に事前に手を打っておきました。偽装工作も既に完了しています。連中が来る直前に配備が間に合ったR型のベルメイもありますので、其処まで心配されなくても宜しいかと」

クルーク「ふむ…その言葉信じよう。科学技術庁の潜航艦は建造箇所の変更は進んでいるかね?」

トイアー「ヴェルタ・シナノ長官指揮の元選定が進められています。まもなく決定できるかと」

クルーク「相分かった。決定し次第連中の目の届かぬ所で艦、そして施設を移して欲しい。あれも、今の我が国には必要な物だ」

トイアー「はっ!」



この日、カルラン暦6年(2195年)4月22日、カルラディア帝国政府で、正式にフルクファーラント大皇国軍カラーディ駐留艦隊の受け入れが決定した。

それから時は流れ2年、カルラン暦8年。

駐留艦隊は着任当初こそ横暴な雰囲気を隠していたが、徐々に国民への横暴が酷くなり、物的・心的被害を受ける国民も多く出てくるようになってきてしまった


幹部「閣下!国民が、駐留艦隊の横暴に我慢ならないとデモを!」

クルーク「……」

トイアー「閣下…?」

クルーク「マリウス、私は彼奴らとの駐留契約の際に、必要外での領地立ち入りは禁ずるとしたと思うが……記憶違いだったかな?」

トイアー「……、いえ私も同じ様に記憶しています。カンツ司令も承諾したのを確認した筈です。」

アンジェロ「閣下、このままですとデモ参加者が暴徒に成りかねません。どうか対応をお願いしたく……」

クルーク「カンツ司令を呼び出せ。それとジークハント君もだ。ジークハント君は即時呼集だ。」

トイアー「どうなされるおつもりですか?」

クルーク「今下手に事を起こす訳には行かん。カンツ司令には部下への契約内容周知徹底の厳命、ジークハント君には外務省を通じて、フルクに抗議文とフルクからも注意をする様申し入れをする。」

トイアー「流石閣下です。冷静な対応尊敬致します。」

クルーク「本当の事を言えば、直ぐにでも連中を叩き出したい所ではあるが、まだその時では無い。……時が来ればあの様な連中など……!!」


『民を率いるものが冷静さを欠いてはならない』

かつてマティウス殿下から教わった事を今も守り続けるクルーク。しかし、教えを守るだけでは民を守れないと言う事に、彼が悟る日も近づいている____

第9話へ続く

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