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第2章第1話西から登った太陽かげ

  宇宙―  それは、人類に残された最後の開拓地―  そこには、我々の想像を絶する未知なる文明、新しい生命で満ち溢れていた―  これは、母星を捨て、新たな地へとたどり着いたカルラディア帝国の、驚異に満ちた新たな物語―   *   *  ―時に、カルラン暦19年7月某日  その日、ハーマリア星系を警備中の宙警局第4管区航宙保安隊は、妙な艦隊の領域侵入を観測し、その対処に当たっていた。 「領域侵入中の所属不明艦隊に通告する。こちらは、カルラディア帝国警務省航宙保安隊である。本ハーマリア星系は我が国の領域であり、許可の無い艦隊及び人員の侵入は主権侵害に当たる。官姓名を明かし航行目的を開示せよ。繰り返す、官姓名及び航行目的を開示せよ。」 『―我らはズバイル。汝らに告げる。我らが唯一神"ズバイル"を奉ぜよ。さもなくば、「去れ」』 「…我がカルラディア帝国は、屈服を強いようとする者へは断固膝を着かない。即刻立ち去られよ」 『そうか、では疾く消えよ』  ズバイルと名乗った艦隊司令の発言直後、宙警局第4管区航宙保安隊は瞬く間に消滅した。  この一件は、警務省第4管区航宙保安本部を通し第1師団艦隊司令部へ報告され、現師団長であるセト大将は直ちに艦隊を向かわせたが、艦隊が到着した頃には既にズバイルと名乗る謎の艦隊は宙域より姿を消していた__   *   *  ヴィルディア本星では、本件について新たに軍令部長に就任したシャーフがその対応に追われていた。 「総長、こちらが先程航宙保安本部より提供された、ズバイルなる未知の勢力との交信記録です。」  軍令部長室に報告に訪れていた軍令部付き士官から、ホロ端末がシャーフへと手渡される。そこには文字に起こされた航宙保安隊とズバイルなる勢力の交信内容があった。 「ズバイル…?一体何者だ?」 「名称以外その他一切が不明です。現在各所にて情報収集に務めております。」 「了解した。しかし―、マズロアならば、何か知っているやも知れんな。外務総庁にこの情報は?」 「既に情報共有済みです。ジークハント大臣閣下の指示で、既にマズロアへ問い合わせをしているとの事。」 「承知した。とりあえず各師団艦隊に、管轄宙域全域での警戒監視を厳とする様に私の名で下命してくれ。下がって構わない」 「はっ!」  ズバイルの件を報告に来た軍令部付き士官が軍令部長室を...

内務卿の多忙な日々

  —カルラン暦10年6月— 「マリュリア、今日からの視察日程、少し詰められるかな」 「んー…ブルケンでの立食会への参加を、挨拶のみに変更すればなんとか。何か追加のご予定が?」 「うむ、ウルキアーナで新しく品種改良したライジとムグィを見に来てほしいらしくてさ」 旧フルク領域の併合から半年余り。支配域が急激に拡大したことで、内政を司る内務卿の職務は大幅に増えていた。新しい体制を導入したとは言えども、責任者として各地に視察に赴くことが多くなったのは、体力の乏しい内務卿にはかなりの重労働であった。 「はぁあ〜、さすがにスターク・ハイだと、艦内で政務をするにはまだ不便だな…」 『内務卿、贅沢言わないでください〜?こっちなんて未改修の駐留艦なんですからね?』 同航する経済産業大臣ルイス・アーサーが文句を言う。 「すまんすまん。そういや数ヶ月前、移動法廷艦が就役したんだよね」 『インザール卿のテミスディアですか。羨ましいですよホント、、』 「我々も一応、警備隊として各大臣の座乗艦を建造しようとしてるんだけど、」 『おぉ!』 「ただ問題があってね……予算がない」 『それは内務卿のポケットマネーから…』 「警務大臣も同じこと言ってたわ…私も別に金があるわけじゃないんだがなぁ」 内務卿が苦笑する。にしても、裁判長は一体どこから財源を見つけてきているのだろうか。我々はその謎を解くため、ヴィルディアの奥地へと…行っている場合ではない。これから視察に行くのだ。 まず最初の行先は、旧フルクファーラント大皇国の領域であったフルク星系とビドウィーン星系だ。 「フルク星系はその名の通り、旧大皇国の首都星系にして、戦後に我が国の属国として成立したフルク共和国の唯一の支配地だ。人が住んでいるのは、旧首都星の第四惑星カルムと、第三惑星のブルケン。ビドウィーン星系の方は、第三惑星のファランティーナに人が住めるのだ」 「内務卿、誰に喋ってるんですか?」 「アリア、気にするな。ただの解説だ」 「はぁ…」 「ちなみに今紹介した三つの惑星は、どれも数千〜数万年にわたって文明が栄えてきたんだ。その分生存能力も高く、先の大規模な戦役を経てもなお荒廃せずに栄えているんだぞ」 「私に言われても、内務卿秘書なんだから知ってますけど…」 「今回の視察では何をするんだったかな?」 「戦闘で破壊された地区の復興状況の確認...

-Side Story- イルシアとマリュリア 中編④「長い一日」

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マリュリアが列車に乗ってから1時間程経った頃、特務隊情報班は何かを嗅ぎつけていた。 ―――総統府 内務卿執務室――― 内務卿に一本の電話がかかった。 トイアー「……わかった。ご苦労。うむ、マリュリアにも伝えておいてくれ」 ・・・ それから20分ほど経った頃、マリュリアが乗った列車は東市場に到着した。 マリュリア「んーっ、ふわぁ…よく寝た……」 マリュリアは荷物を持って列車を降り、駅を後にした。 アリアに会うために来たわけだが、約束もしないで来てしまったため、まず探すところから始めなければならない。そうこうしているうちに、意外にも簡単に見つかった。いや、それほど大きな町ではないから当たり前と言えば当たり前ではあるのだが。 そしてアリアは、またよくわからない男に絡まれていた。 マリュリア「あらー…アリア男運無いなー…仕方ない、助けるか」 マリュリアは後ろから男に近づき、右手で男の腕を掴んだ。 男が暴れるため、腕を引っ張ろうと力を入れた。  マリュリア「いっ…。」 が、昨日の訓練でできた傷が開いてしまった。 男はマリュリアに掴みかかったが、マリュリアはさっとかわして男を押し倒し、左手でアリアの腕をつかんで走り去った。 マリュリアとアリアは以前来たカフェに入った。 マリュリア「ふぅ…危なかった…」 アリア「マリュリアさん、お久しぶりね…またありがとうございますっ」 マリュリア「いいよー!」 アリア「今日はどうしたの?」 マリュリア「うん、アリアに用があって来たんだよ」 アリア「私に…!」 アリアは何かを察したのか、目をキラキラと輝かせていた。 マリュリア「うふふ笑、アリア、総統府に来ない?」 アリア「そ、総統府に?」 マリュリア「うん、あそこで働けば衣食住は保証されるし、休みの日には帝都も行き放題だよ」 アリア「…話が出来すぎてない?」 マリュリア「うん、まぁ今言ったのはあくまでも内務卿第一秘書とかの話で、総統府の職員全員が保証されるわけじゃない。けど上の人に事情は話してあるし、ちょうどこっちの都合もあったから。アリアなら通ると思うよ!一度面接受けてみようよ?」 アリア「…わかった、やってみるわ!」 マリュリア「じゃあ決まりだね、準備できたら早速列車で総統府に向かおう」 アリア「じゃあ準備してくるわねっ」 アリアが準備をしている間、マリュリアは市場を歩いていた。 マリュリア...

閑話 技術開発局記

 カルラディア帝国が建国される年、私、シュティーア・シャーフは、総統となったロドルフ・クルーク閣下に、国軍の設置を進言し、無事承諾された。 元々軍に勤めていた事から、閣下から国軍設置に関する全権を戴き、帝国憲法を発布する頃にはその大枠も出来上がっていた。 「シャーフ、一つ聞きたいんだが…この"技術開発局"とは?」 「ガミラスで言う所の"兵器開発廠"と同義ですね。我が軍の装備を研究・開発する軍内の独立機関です。」 私から一通りの説明を聞いた閣下は、直ぐに開局を指示。 研究・開発設備を含む技術開発局本部は、その秘匿性を鑑み、ガス惑星であるカラーディ星系第9番目の惑星"ハーデッシュベルト"に配置される事となった。 しかし、開局を指示した段階で一つの問題があった。 それは「誰をトップに据えるか」という物である。 そこで白羽の矢が立ったのが私である。 「シャーフ、たしか君は、軍で兵器開発廠に務めていたと聞いたが」 「えぇ、士官学校を出てから5年程。その後は希望していた艦隊勤務でした」 「ふむ…。シャーフ、君に技術開発局の局長になっては貰えないだろうか」 「わ、私が局長ですか―」 「不満かね?」 「い、いえとんでも無い!!大抜擢に多少困惑してはいますが、是非お受けさせて頂きます」 「そうかそうか!!君がついてくれるなら安泰だ!!」 こうして私は技術開発局の局長となり、30そこらで大将という、とんでも無い昇進も果たした。 欲を言えば軍令部に就きたかったが…、閣下から直々のご指名であれば蹴る理由など無し。 初めの内は本星ヴィルディアで仮設施設を建設して頂き、ハーデッシュベルトの本拠点が完成するまでそこで各種研究を進めていた。 建設時間に懸念のあった本拠点も直ぐに完成し、技術開発局は総員でハーデッシュベルトへ異動した。   *   * 閣下が、第1衛星イスヴィアで発見したイスカンダル純正のゲシュ=タム・コアの活用を提案してきたのは我が技術開発局のゲシュ=タム・コア解析が想定以上に順調に進んでいたからなのだろう。 調べれば調べる程情報をもたらしたそれを、我々は"ガム"と呼んでいた。 閣下は我々が噛み続けていたガムの活用法として、新鋭艦への搭載という形でこれを提案してきた。 結果として生まれたのが、量産型コア...

閑話『インザール卿日誌』② 法の番人と束の間の忘我

 マズロア大君国。  カルラディア帝国の友邦にして、強力な傭兵集団を有する国。宇宙の中にポツンと浮かぶ準惑星にも満たない大きさの要塞に、その首都ショーゲツ島浮遊要塞がある。  周りは散開星団から来る“荒れた海”。要塞の下にある、大きなフィンによりエネルギーを吸収しているのだという。 「よくぞ参られた、カルラディアの裁判長よ」  大君、ミナト・マズロア。  銀色の髪に、神職の格好をする青年。しかし噂によれば、数百年も生きているとされる者。その深謀遠慮となるや、小国を治めるだけに収まらないとの噂である。 「はじめまして、ハルキ・ウィンブライ・インザールです。大君陛下、お会いできて光栄です」 「良い、貴国とは長い付き合いになるだろう。そして、卿は我が血族の窮乏を救ってくれたと聞く。その事には恩がある」  長命な身であり、恐らくは長年孤独だった。  そんな人間にとって、ミータカ・エルノラとミツネ・マズロアという、二人の血族との邂逅は心の支えになったのだとか。 「時に、卿は歴史について興味があると聞く。我々の歴史書を下賜する、卿への信頼の証だ」  完全に信頼されてはいるが、公的な場。  貴重な書物を前に、少し慄いてしまう。だが、信頼の証にこれ以上何をいう気もならなかった。 「インザール先生、この後どうするんです?」  ミータカが訊く。ミータカにとっては、弟に似た姿の人物。気にかけざるを得なかった。 「表敬訪問が終わったら、すぐに本星に戻って速攻で片付けなきゃ行けない仕事ができたんでね。君はどうする?」 「おれは、今度はロデスト方面に行こうと思ってる。インザール先生、頑張って」 「君も、健康に気をつけてね」  ミツネからも、マズロア大君が好んでいる茶葉を頂く。  手に持てる量ではなく、カーゴに積んで船にまで持ち帰らないと行けなくなった。 「この世界には、三人同じ顔の人が居ると聞きます。貴方の奥さん、私の従姉に似た顔の人だった。それがミータカにとっては、偶然に思えないのかもです」 「…弟、なのか。彼にとって、私」 「はい、そんな目をしてます」  ミータカは、その弟が成長した姿の様な壮年を見て、やはり最後に一回だけ顔に触れたかった。ミツネが羨むほどにミータカはハルキのデコにデコをすり寄せたのだ。  そこで、インザールは過去を見た。  かつて200年前、“スリーアイ”なる星が地球近傍...

閑話『インザール卿日誌』① 燻り

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「いやはや、今回の裁判も難航しましたね。まさかマズロアの信徒が被告とは」  裁判官の一人がコーヒー片手に、インザールに話を振る。 「そうだね。幾ら信徒と言えど、罪が許されるわけではない」  裁判所として、彼らとの癒着疑惑を払ういい機会でもあった。インザールはガミラスの伯爵家に生まれたが、既に没落し居館と少しの船しか相続されなかった。  故に貴族でありながら、教員という道に進んだ。それがまさかの最高裁判長、大出世ではあるが様々な事を憂いざるを得ないのだ。 「裁判長、執行部旗艦の引き渡し式が来週に迫ってます」 「それで皆、マズロアというかハーマリア教に敏感になっていたのか?」 「それはそうですよ、マズロアファミリーという裏社会を支配する組織がある訳です。執行部旗艦に何か仕掛けていないとも限りませんよ」  異口同音に、移動式法廷ともなるその船、そしてその製造元に対して不安を抱いている。それを払拭するのも、彼の言葉であった。 「彼らは信頼を重視している。だがそれはグレーゾーンを増やすことではない、彼らの構成員であれど罪は罪。罪を犯した人間に対しては、マズロアは信頼を裏切った者として扱っている。だからトラップの心配はしなくていいんだ」  続けて 「故に我々は臆することもないし、元より宗教的権威とマフィアを兼ねる様な勢力であれど、裁判所は膝を折ってはならない。その為の、最高裁判所執行部だ」  と声高に宣言したのだ。 ………  カルラディア帝国建国から10年、フルクファーラントとの戦争が終わり戦後処理の裁判が一区切りした頃。マズロアから納入された、最高裁移動法廷艦の引渡し式が行われた。 『我々、カルラディア帝国最高裁判所はこの国の民の生存権を守る最後の砦です。だが先の戦争で我々は民を守る力を制限され、民を無碍にされた。二度と同じ轍を踏むことは、断じてあってはならない』  会場にどよめきが響く。  そして、インザールは続ける。 『この移動式法廷艦の就役を機に、カルラディア帝国の民の生存権をより確固たるものにしたい。今ここに集う裁判官、検事、弁護士の皆さんには、より一層、公正公平を重んじて民の生存権を守るように励んでほしい』  深く深く、最高裁判長がお辞儀をする。  拍手が湧き上がり、そしてインザールは造船所のチーフから一本の瓶を頂く。そして思いっきり艦首に向けて投擲し、瓶が砕けてポ...