閑話 技術開発局記

 カルラディア帝国が建国される年、私、シュティーア・シャーフは、総統となったロドルフ・クルーク閣下に、国軍の設置を進言し、無事承諾された。

元々軍に勤めていた事から、閣下から国軍設置に関する全権を戴き、帝国憲法を発布する頃にはその大枠も出来上がっていた。


「シャーフ、一つ聞きたいんだが…この"技術開発局"とは?」

「ガミラスで言う所の"兵器開発廠"と同義ですね。我が軍の装備を研究・開発する軍内の独立機関です。」


私から一通りの説明を聞いた閣下は、直ぐに開局を指示。

研究・開発設備を含む技術開発局本部は、その秘匿性を鑑み、ガス惑星であるカラーディ星系第9番目の惑星"ハーデッシュベルト"に配置される事となった。

しかし、開局を指示した段階で一つの問題があった。

それは「誰をトップに据えるか」という物である。

そこで白羽の矢が立ったのが私である。


「シャーフ、たしか君は、軍で兵器開発廠に務めていたと聞いたが」

「えぇ、士官学校を出てから5年程。その後は希望していた艦隊勤務でした」

「ふむ…。シャーフ、君に技術開発局の局長になっては貰えないだろうか」

「わ、私が局長ですか―」

「不満かね?」

「い、いえとんでも無い!!大抜擢に多少困惑してはいますが、是非お受けさせて頂きます」

「そうかそうか!!君がついてくれるなら安泰だ!!」


こうして私は技術開発局の局長となり、30そこらで大将という、とんでも無い昇進も果たした。

欲を言えば軍令部に就きたかったが…、閣下から直々のご指名であれば蹴る理由など無し。


初めの内は本星ヴィルディアで仮設施設を建設して頂き、ハーデッシュベルトの本拠点が完成するまでそこで各種研究を進めていた。

建設時間に懸念のあった本拠点も直ぐに完成し、技術開発局は総員でハーデッシュベルトへ異動した。


  *   *


閣下が、第1衛星イスヴィアで発見したイスカンダル純正のゲシュ=タム・コアの活用を提案してきたのは我が技術開発局のゲシュ=タム・コア解析が想定以上に順調に進んでいたからなのだろう。

調べれば調べる程情報をもたらしたそれを、我々は"ガム"と呼んでいた。

閣下は我々が噛み続けていたガムの活用法として、新鋭艦への搭載という形でこれを提案してきた。

結果として生まれたのが、量産型コアを使用した新鋭戦艦"アーヘンドラッヘ"である。

3年前に終結したフルク戦役ではこの艦が大いに活躍し、今後の大幅増産も決定された。

閣下としては純正コアを使って欲しかったのだろうが、我々にも考えがある。

あともう少しすれば、その考えを具現化した物をお見せすることができるだろう。


  *   *


「失礼します」という快活な声が聞こえると、局長室の扉が開く。

入ってきたのはアレッシア・ザイル2等軍曹。

先の戦役中に15歳で軍へ志願して来た現在23歳の私の従兵だ。


「やぁ、ザイル君。どうしたね?」

「本日の昼食をお持ちしました、閣下」

「おぉ、助かるよ!今日は書類が大量で食堂に行けそうに無かったんだ。今日のメニューはなんだい?」

「本土で生産された野菜とソーセルジュを使ったポタフェに、バゲッテ、燻製ベルクンとコーフェーです。」

「ポタフェか、いいな。私の好物だ」

「調理担当に言って、閣下用にソーセルジュを多めに入れてもらっています」

「流石、よくわかっているね」

「閣下の従兵となって4年も経ちますから」

「そうか、もうそんなに経つか…」

「はい。総統閣下が我が国を建国されてから濃密な13年でした。」

「全くだな。だが、色々有っても充実した13年だったよ。」

「おっしゃる通りです。」


この頃の私は、開発中の新型兵装に関する予算や試験報告等に関してのデスクワークが主な業務であり、あまり研究室に顔を出せずにいた。

面白くも無いデスクワークのせいで、仕事中の唯一の楽しみは食事だけという状況だった。

まぁ、何が言いたいかと言うと、建国時よりも"若干"太った訳だ。


「―閣下、お腹周り気にされながらお食事されるのでしたら、局内のジムに行かれては?」

「いや、うん。全くその通りだし何だったら通ってはいるんだがね…。特に今週は書類仕事だらけで足を運べていないんだよ…」

「そうでしたか…。あ、閣下。私事ではあるのですが一つご報告が」

「ん、なんだね?」

「来月にはなるのですが、入隊前よりお付き合いしている女性と結婚する事になりました。」

「ほぅ、そいつはめでたい。………結婚!?」

「はい。」


開いた口がふさがらないとは正にこの事。

彼女が居た事すら知らなかったというのに急に結婚とは…

いやまぁ目出度いのは良いことだ。

何か祝品を見繕っておこう。


「そういえば閣下は」

「未だに未婚だが?そういう相手も居ないが?」

「あ…、失礼しました」

「よせ、謝るな。惨めになる…」

「…、あの、用事を思い出したので一旦離席しますね。お食事終わり頃に食器は回収に参りますので」

「あぁ、そうしてくれ」


なんと惨めな事か…

そういった願望が無いではないのだ、私も。

しかしながら悲しいかな、軍に入隊するまでの間に成功した恋は無く、閣下に追随してからはそんな余裕もなく…

国が出来てからは戦いが続き…そんな暇も無かった!!

気がつけば30も超え、若干諦めている自分もここに居る。

正直ここまで来たら、一生未婚のままで居ようとすら考えて居る。

居るが…

今は考えるまい。

しかし今日のポタフェは少ししょっぱいな。

塩入れすぎじゃないのか?


  *   *


その日、我が技開局では一つの大きなイベントがあった。

フルク戦役中に進宙した新鋭戦艦"アーヘンドラッヘ級"の一番艦アーヘンドラッヘの特別改装が終了し、我が技開局最大の"研究成果"を搭載したのだ。


「局長、遂に完成しましたね」

「あぁ。これも、君達装備開発課の尽力の賜物だな、ヴァエト君」

「お褒めに預かり光栄です。しかし、想定よりも時間がかかってしまいました…」

「何、気に病むことは無いさ。こいつが『あの艦』の完成前に出来上がっただけで十分だ」

「閣下!総員配置に付きました。出港準備、完了です」

「ご苦労ザイル君。―では諸君、翔び立つとしよう」

「ドック天蓋開け!ガントリーロック解除、離床!!」


装備開発課課長のクシェフ・ヴァエトが発進の指示を出し、ドックから真紅の美しい艦体が浮かび上がる。

ドック周辺では、今回乗艦することのなかった他局員達が、試験の成功を祈りながら見送っていた。


「これより本艦は、ハーデッシュベルト−ダゼアフォン間の重力低干渉宙域にて、艦首に搭載した新型装備の実射試験を行う。」

「両舷前進半速、進路そのまま」

「前進半速、進路まま、アイ!」


ハーデッシュベルトを発進したアーヘンドラッヘは、予定通りに9−10番惑星間の重力低干渉宙域に展開、新型装備の実射試験態勢に入った。


「現在、ハーデッシュ−ダゼアフォン間の重力低干渉宙域。周辺に障害無し」

「局長」

「どうしたね、ヴァエト君」

「記念すべき第一射目です。発射シークエンスを是非」

「ん?そうか、そういうことならば」


「おほん!」と若干わざとらしく一息着くと、シャーフが声を張り上げる


「艦首開口!アーヘンドラッヘ、艦首砲発射態勢!!」


シャーフの指示に合わせアーヘンドラッヘの艦首がその口を開く。

開かれた口の中から、これまでに無い程大口径な砲身が『ズズズ』とせり出しその顔を覗かせる。


「艦首砲への回路開け、非常弁全閉鎖、強制注入器作動。」


艦内無線を通し、シャーフからの指示が機関制御室へ鳴り響く。

「回路開放。非常弁、全閉鎖!」と機関長が指示を復唱し、操作コンソールのレバーを下げる。

ゲシュ=タム機関が生み出したエネルギーが、開放された回路へと流れ込み、砲口への集約が始まる。


「安全装置解除、薬室内圧力上げ。」


艦首砲の撃鉄となる強制注入器の安全装置が解除され、作動準備が整い、集約が始まった砲口へエネルギーがどんどんと流れ込む。


「最終セーフティ解除!」


強制注入器の受け側の安全装置が外れ、発射態勢が完全に整った。


「艦首砲薬室内、タキオン粒子圧力上昇中。現在75、89、94、100。圧力120パーセル。発射準備完了!」

「総員、非常時に備え対ショック姿勢。」


シャーフの前に、銃の様な形をした発射装置が展開する。

発射態勢が整ったことを確認したシャーフは、そこに手をかけ、撃鉄を起こすように眼前のレバーを手前に引いた。

それまでトリガーに掛けていなかった指を掛ける。


「艦首砲、発射ぁ!!」


自分で自分に発射の号令を掛けると、トリガーを力いっぱい引く。

トリガーが引かれた事を電気信号が受信し、艦首砲の強制注入器が勢いよく前進する。

薬莢のプライマをファイアリングピンが叩くように、強制注入器が薬室に集約されたエネルギーを叩き、その衝撃で集約されたエネルギーが若干設けられた砲身から爆発的に流れ出す。

一直線に流れ出したエネルギーは、青紫に近い色をしながら伸びてゆく。

発射から10秒程が経過した頃には、集約されたエネルギーを撃ち切り、僅かばかりの残滓を漂わせながらシャーフ達の眼前より消え去った。


「きょ、局長…これは!」

「あぁ、成功だ!大成功だ!!」


シャーフの言を受け、艦内が沸き立つ。

当初の予定よりも遅れての完成ではあったが、技術開発局装備開発課が総力を挙げて創り出した艦首砲用大口径光線砲、後に総統のファミリーネームを戴き"クルーク砲"と名付けられる本装備誕生の瞬間であった。

時に、カルラン暦14年地球暦2204年2月の事である。


  *   *


時は過ぎカルラン暦16年。

純正コア搭載の新鋭総統座乗艦完成が目前に迫るこの年、総統閣下より全軍へ大幅な組織改編の通達があった。

フルク戦役終結後から急激に拡がった領域をカバーする為の施策であり、これに伴い軍令部役員の再選が行われた。


「異動…ですか?」

「そうだザイル君。君と私に総統府より直々に異動命令が下りた。」

「内容は何です?」

「『帝国軍大将シュティーア・シャーフ、並びに2等軍曹アレッシア・ザイル。カルラン暦16年4月1日付で、ヴィルディア軍令部への異動を命ず』だ。」

「軍令部付き…、栄転も栄転じゃないですか!!」


喜びを隠さずにザイル君が話す。

事実その通りだ。


「これは風の噂で聞いた話なんだが、これまで臨時での軍令部総長を務めていたシナノ宙軍参謀長が、今回の人事を蹴ったそうなんだ」

「そこで閣下に白羽の矢が立ったと。つまり閣下の軍令部総長就任確定と言うことですか?」

「本星で詳細な人事を聞かねばその真偽は判らんが、可能性は高いと言っていいだろう」

「私は閣下のお零れに預かった感じですかね?」

「なんだ、謙遜か?君は教育隊を優秀な成績で卒業し、ここでもその真面目さから勤勉に努めて来たじゃないか。それを認められたと言う訳だよ」

「そう言っていただけると光栄に思います。しかし、後任人事は如何なされるのですか?」

「いずれはと考えていたが、装備開発課のヴァエト君を推薦するつもりだ。彼ならば今後も上手くやっていけるだろう。」

「ついでに閣下も口を出し易くなる。そういう訳ですね?」


全く、考えが見透かされていると云うのは気分が良くないな。

それだけ彼が優秀である事の裏付けでもあるが…


「若干意地の悪い言い方に感じるな。まぁ君の言うとおりではあるが」

「失礼致しました。しかし、もし閣下が軍令部総長就任となり、理想通りヴァエト課長が後任で局長となれば、閣下は軍全体への非常に大きな影響力を持つ事になりますね。」

「そうだな。まぁ『だから何だ』と言いたいがな。私としては総統が思う理想を実現するためにのみ動いているつもりだ。もし君が、私のクーデターを心配しているのなら、それこそ杞憂と言うものだよ。」

「流石国内一の忠誠を自負しておられるだけはありますね。閣下の尊敬すべき所の一つです」

「…前々から思っていたが、君、俺を過大評価してないか?」

「まさか!!正当な評価です!!」


"フンス!"と、そんな鼻息が聞こえるレベルで力説する彼に若干引き気味にはなるが、そこまで自分を慕ってくれているというのは上官として照れくさくも誇らしい。

やはり彼は―


「あー、ザイル君」

「はい、なんでしょう?」

「………」

「閣下?」


いや、今これを伝えても彼を混乱させるだけか。

もう少し落ち着いてからにするとしよう。


「―いや、なんでも無い。気にせんでくれ」

「は、はぁ…」

「それよりもだ、"例の件"の日取りは決まったかね?」

「はい。関係各所への調整も完了し、来月3月18日に正式に決まりました。」


"例の件"とは、とある艦の進宙式の事である。

その艦は、莫大な建造予算と技開局、軍の威信を賭けて建造が進められた。

何しろ、メルトリア級に代わる総統の"新たなる座乗艦"として計画が進められたのだから。

その艦こそが、純正コア搭載の総統座乗艦である。


「ようやくか…計画から10年以上。長かったな」

「それだけ様々な技術も盛り込まれていますからね。私も閣下のお付として出席出来るので楽しみです。」

「"あの艦"の進宙式が終わり次第、我々もヴィルディアへ異動となるだろう。準備は済ませておけよ」

「はっ!」


  *   *


―カルラン暦16年3月18日

ハーデッシュベルトに籍を置く技術開発局は、1週間前から様々準備に追われ続けながら、新鋭総統座乗艦進宙式の日を迎えた。

総統や内務卿、宙軍参謀長含む国内の要人一同が来訪する事もあり、入念な警備計画が練られ、ドックを含む可能な限りの箇所を清掃し見た目を良くするなど、それまでに無い大掛かりな準備を終えた技術開発局は、無事に要人一同を迎え入れ、間もなく進宙式の開幕を迎えようとしていた__


「シャーフ!」


式典会場にて私に声を掛けてきた者が居た


「閣下!」


何を隠そう、ロドルフ・クルーク総統その人である。


「無事に全てが間に合った様で何よりだ」

「局員総出で準備しましたから。…この日が我が技開局にとって大きな転換点となるでしょう」

「そうだな。だが、これは技開局だけではなく、我が国、我が軍に取っても大きな転換点となるだろう。―そうだシャーフ、異動の話は既に聞いているな?」

「はい。軍令部への転属、閣下の御采配に感謝致します。」

「なに、シナノ君が駄目なら君と考えて居ただけの事さ。」

「ではやはり―」

「うむ。正式な辞令は4月1日の着任日に下ろすが、既に君の統合軍令部総長就任は決定している。」


何たる…何たる僥倖!!

閣下の為の軍をより閣下の為の物にする事が出来る。

今の私に取ってこれ以上の喜びは無かった。

さらに閣下が告げる


「今回の軍部再編で、組織関係も大幅に変わる。特に、独立機関であった技術開発局は軍令部直轄として編入される事になった。」

「では―」

「最終的な決定権は君が握る事になる」

「内部から私が力を持ち過ぎだと言われかねませんな…」

「何、それ位が丁度良いだろう。今回の再編は、私の責任でもある」

「―と、言いますと?」

「フルク戦役中の本土空襲で喪った前任軍令部長等の後任を直ぐに決めることが出来ず、ここまでズルズルと来てしまった。理由があるにせよ、軍内を混乱させた責任はある。その責を負っての今回の軍部再編だ」

「そういう事でしたか。」


やはり閣下はお優しいお方だとそう思った。

一般的に国のトップに立つ人は、多少の責は持てど、トップらしく上に立つだけで良い所がある。

しかし閣下は、国を見、民を見、自分さえもその一部として国家を動かしている。

だからこそ、これまでの苦しい中でも、臣民たちは皆閣下についてきたのだろう__


  *   *


その日、進宙式は厳かにも盛大に執り行われた。

まず初めに司会から開式の言葉が述べられ、直ぐに軍楽隊の伴奏付きで国歌を斉唱した。

その後、総統閣下直々に、本艦への命名が行われた。


「本艦を、『ロドルフィアⅡ世』と、命名する。カルラン暦16年3月18日、総統ロドルフ・クルーク」


そう言葉が告げられると、軍楽隊の演奏と共にドックに設けられた艦名板に電源が入り、『ロドルフィアⅡ世』と書かれた文字が浮かび上がった。

会場からは静かに「おぉ」と言う声が聞こえ、来賓達が新鋭総統座乗艦の進宙を固唾を呑んで見守っていた。


いよいよ私の番だ。

本来であればこの役目はシナノ参謀長が担うのだが、彼から私に"是非に"とお譲り頂いた。


「それではこれより、シュティーア・シャーフ技術開発局局長による、支綱切断が行われます。」


『支綱切断』

それは、産まれてきた赤ん坊の臍の緒を切る事と同じ程の大切な儀式。

この一本の綱を切る事で、この艦はこの世に産まれ出る事を意味すると同時に、今後の安航を祈願する物。

自然と肩に力が入る。

身体が少し強張るのを自分でも感じる。

ザイル君が渡してくれた支綱切断斧を持つ手が震える。


―おかしいな、俺はこんなに緊張しいだったか?


緊張でガチガチになっている私を見てか、総統がお声を掛けて下さった


「シャーフ、力を抜け」

「は…?」

「肩の力を抜くんだよ」

「は、はい―」


総統からの言葉を受けて、少し冷静さを取り戻す。

息を深く吹き出し、吹き出した量と同じ程度吸い込み深呼吸をした。


よし―


支綱へ当たりをつけ、少し振りかぶり、ほんの一瞬祈りを込めて静止する。

後は落下の勢いで綱を切るだけ。

"トン"という音が響くと支綱が切断され、切断に併せて無数の花火が上がり、艦首にヴィルディア産10年物のシャンペルニュが瓶で叩きつけられる。

周りからの歓声と大きな拍手で、自分がこの艦の進宙を成功させたのだと実感した。


そこからの式はつつがなく進行し、無事に閉会を迎えた。

本土より来た来賓は式が終わると1時間と経たない内に帰還の途に付いた。


「正にあっという間の出来事でしたね」

「あぁ。だがこれで、"こいつ"はこの世界に産まれ落ちた。私のここでの役目も終わりだな」

「ガチガチに緊張していた閣下は少し面白かったですよ」

「言うな。自分でも少し面白いくらい緊張していたんだ。思い出したくない」


他愛も無い話をしているとふとザイル君が私の方へと向き直り、姿勢を正した。


「―閣下、改めまして、統合軍令部総長の就任、おめでとうございます。」

「まだ完全に正式なものではないと君も聞いていただろうに―」

「気が早いと言われても構いませんよ。事実は事実ですので」


全く、なんという忠誠心だ。誰に似たのやら…


「これから忙しくなるが、ついてこられるかね?ザイル君」

「勿論です。閣下の行く所我有りですから」

「そうかそうか!では今後も私のお供、宜しく頼むよ」

「は!おまかせを!!」


ビシッとした敬礼をしながらも、眩しくなるような笑顔をして、彼はそう返事をしてくれた。


進宙式から2日後の3月20日、ハーデッシュベルトの技術開発局本部でシュティーア・シャーフ並びにアレッシア・ザイルの離任式が行われ、その日の内に連絡船にてヴィルディアへと旅立って行った。


  *   *


ヴィルディア到着から数日が経った4月1日、総統閣下より改めて正式な辞令が下り、私は上級大将へ昇進すると共に、カルラディア帝国軍統合軍令部総長として軍令部に着任した。

この日を境に私は、カルラディア帝国軍の全てに携わる事になり、以前よりも忙しい日々を送る事になった。

ザイル君も1等軍曹へと昇進し、私の従兵としてだけでなく、従兵長として部下を持つ事になり雑務以外の様々な業務を受け持つ事になり忙しそうだ。

私の軍令部総長就任から数年は平和な時を過ごしていた。

しかし、事態が大きく変わり出すのは、カルラン暦20年の春。

建国から20年という記念すべき年であった――


                         ―第2章へ続く

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